こんにちは、もしもにスタジオ代表の防災士うめいです。
このサイトでは「防災をデザインする。」をテーマに防災に関するお役立ち情報を発信しております。
今回は「非常口マークの謎」についての記事です。
非常口マーク・イラストを使いたいけれど、著作権が気になる
非常口マークのイラストの向きに決まりはあるか知りたい
とにかく非常口マークについて、課題や仕事で調べている
非常口マーク、実は2種類ある!
緑が印象的な非常口マーク。日本に住んでいる方なら、誰でも目にしたことがあるのではないでしょうか。
あの非常口マークは「誘導灯」というものであり、大きく「矢印」と「駆け込んでいるピクトグラム」の2種類が存在します。
背景が緑のマークは「非常口そのもの」を示し、背景が白色のマークは「非常口の方向」を示します。
身近な非常口マークでありながら知らない人が多く、警視庁警備部災害対策課の投稿がバズりました。
非常口を示すマークに種類があるのをご存知ですか?背景が緑色のマークと白色のマークがあり、それぞれ意味が違います。背景が緑色のものは非常口そのものを示しており、白色のものは非常口の方向を示しています。宿泊施設等で夜間に避難する際は重要な目印になります。覚えておきましょう。 pic.twitter.com/iVTLPjsrhy
— 警視庁警備部災害対策課 (@MPD_bousai) April 7, 2024
白色の背景に緑の矢印の非常口マークは『通路誘導灯』
白背景に緑の矢印が大きく表示されている非常口マークが「通路誘導灯」のマークです。通路誘導灯多くは矢印のマークに人が駆け込んでいるマークが併記されています。
火災や地震などの非常事態には、この「通路誘導灯」の矢印の方向に向かって進むことで脱出避難できる避難口にたどり着くことができます。
緑色の背景に人が駆け込んでいる非常口マークは『避難口誘導灯』
緑色の背景に人が駆け込んでいる非常口マークは「避難口誘導灯」といいます。
この「避難口誘導灯」がある場所には、実際の「避難口」が設置してあります。このマークを見つけたら実際に避難できる場所ということなので、初めて訪れる施設では位置を確認しておくと安心ですね。
\ 非常口の生みの親「太田 幸夫」氏監修! /
非常口マークは、左向き・右向き両方OK(基本系は左向き)
まず、非常口マークですが結論「右向きでも左向きでもOK」です。これはISO 7010という危険標識・警告標識・安全標識についての国際標準化機構 (ISO) の国際規格で世界共通マークとして決められております。
https://www.iso.org/obp/ui#iso:grs:7010:E001
左向きのマーク(ISO 7010:E001)
https://www.iso.org/obp/ui#iso:grs:7010:E002
右向きのマーク(ISO 7010:E002)
一方、マークが制定された当時「逃げる人は左向き」とだったそうです。
しかし、逃げる方向が右であっても常に左を向いているのは直感的にわかりにくい、という理由で現在では逃げるべき方向を向いています。
一方で、基本系は左向きとなります。例えば以下のような、避難場所が左右にある場合(左にも、右にも矢印が出ている場合)は非常口マークは左を向いてます。このことから基本系は「左向き」となるでしょう。
非常口マークのあの人は「ピクトさん(ピクトくん)」
非常口マークのあの人、実は名前がついており「ピクトさん」(または、ピクトくん)という名前です。
ピクトさんの生みの親は「内海慶一さん」
ピクトさんという名称は、日本ピクトさん学会会長の内海慶一さんにより2003年に命名さています。なんと、ピクトさんの本」という本まで出ているとのことで、驚きです。
日本ピクトさん学会というサイト(※1)で、細かいピクトさんの分類を見ることができます。日本ピクトさん学会によると、非常口マークのピクトさんは「かけこみ系ピクトさん」ということになるようです。ピクトさんの本も出ているので、興味があれば是非ご覧ください。
かけこみ系ピクトさん、なんだかかわいいにゃん~♪
9月10日は「ピクトさんの日」
ちなみに、ピクトさんの日は9月10日です。日本ピクトさん学会が設立された日が由来です。ピクトさんの日当日は、SNSにピクトさんへのお祝いの言葉が送られるのをみることができます。
非常口マークはなぜ緑色?防災上の重要な理由とは
ところで、非常口マークはなぜ緑色なのでしょうか?色彩検定2級所有者の筆者が解説します。
非常口マークが緑色の理由はズバリ、「赤色の補色」だからです。
何を言っているかわからないから、もっと解説が欲しいにゃん!
色には必ず「補色」という、相互に補完しあう色が存在しています。
下の図は『マンセル色相環』という色の補色関係を表した図です。円の対極にある色が補色関係となります。
そして、補色関係の色は馴染まないため、一緒に配色するとお互いの色が目立つのです。
お気づきかと思いますが、火事の時炎は赤色です。
そして、その補色に当たる色こそが、非常口マークに採用されている緑色なのです。
防災の観点からも重要な意味がある配色だったのですね。
\ 非常口ファンの方に朗報♪これであなたも避難口…! /
非常口マークの著作権問題
皆さんが気になる非常口マークの謎の一つに著作権の問題があります。
「非常口 著作権」で検索すると、検索の上位のほうに以下のようなYahoo知恵袋の書き込みがあります。
ざっくり書くと「非常口のマークに著作権はありますか?」という質問に対して、「著作権はない」という回答がベストアンサーになっていますが、本当なのでしょうか?
引用:Yahoo知恵袋
https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q11216042571
非常口マークの著作権は「著作権法第13条第2項」により非保護著作物となる
結論、非常口マークについては著作権法の「非保護著作物」つまり、著作権はないということになります。
著作権法第13条(権利の目的とならない著作物)
次の各号のいずれかに該当する著作物は、この章の規定による権利の目的となることができない。
一 憲法その他の法令
二 国若しくは地方公共団体の機関、独立行政法人又は地方独立行政法人が発する告示、訓令、通達その他これらに類するもの
三 裁判所の判決、決定、命令及び審判並びに行政庁の裁決及び決定で裁判に準ずる手続により行われるもの
四 前三号に掲げるものの翻訳物及び編集物で、国若しくは地方公共団体の機関、独立行政法人又は地方独立行政法人が作成するもの
著作権法第13条(権利の目的とならない著作物)の解釈
著作物であっても、法令のように国民一般に周知徹底させることを目的とするものについては、著作権法上の保護の対象外(非保護著作物)となる
引用
https://ja.wikibooks.org/wiki/%E8%91%97%E4%BD%9C%E6%A8%A9%E6%B3%95%E7%AC%AC13%E6%9D%A1
上記のように、たとえ著作物だったとしても、国などが定めたマークは私たち国民が広く知らなければならないので、著作権法上の保護の対象外になるのですね。
消防庁告示の誘導灯及び誘導標識(消防法施行規則)で定められており、非保護著作物
引用:誘導灯及び誘導標識の基準
https://www.fdma.go.jp/laws/kokuji/assets/h11_kokuzi2.pdf
「消防庁告示第二号」でいわゆる「非常口マーク」について、厳格に定められています。
「告示」というのはあまり聞きなれない言葉かと思います。
公示とは行政機関などが広く国民に周知させる行為をいいます。そして、消防庁は日本の行政機関のひとつで、日本の消防活動を統括する総務省の外局であります。
つまり、著作権法第13条で「非保護著作物」の条件に当てはまるため、非常口マークは非保護著作物、つまり著作権はないのです。
難しかったけど、非常口マークを使うことができそうにゃん♪
非常口マークのデザインの背景や歴史
非常口マークのデザインの生みの親は「グラフィックデザイナー・太田幸夫さん」
\ 太田幸夫さんの著書。非常口マークについて、もっと詳にを知りたい方へ /
生みの親は以前の「非常口マーク」に課題を感じていた
非常口マークのデザインの生みの親はグラフィックデザイナーの太田幸夫さんです。日本サイン学会元会長の方でもあり、サイン会の権威の方です。
その、太田さんですが、以前の非常口マークには課題を感じていたそうです。
引用:非常口ピクトグラム・コレクション(VFRでツーリング!たーさまの日記)
https://tarsama.hatenadiary.com/entry/20190422
非常口サインは当初、小学校5年生にならないと学習しない「常」の字を真ん中に3文字の「非常口」が並んだ文字表記で、保育園で目にするのも同じでした。’72大阪と’73年熊本のデパート火災で260名の死者が出て、10W1本の蛍光灯内装サインが、煙で見えなかったのではないかと国会でも問題になり、消防当局は20Wと40Wを2本内蔵した巨大文字サイン灯を全国に取り付けました。
引用:非常口のピクトグラム(太田幸夫 デザインアソシエーツ)
https://note.com/otayukio_design/n/ne234df4edb63
太田さんが課題に感じていた「非常口マーク」ですが、確かに多くの人が見てわかるような、標識ではなかったようですね。
非常口マークが煙で見えなかったから被害が拡大したのでは?とも議論になった、大洋デパートの大規模火災。1973年に死者104人を出した熊本市の大洋デパート火災は日本の災害史を振り返っても過去最悪級の火災事故だったと言われています。出火の原因はわからなかったそうです。
国際規格になった日本案、外国の人や幼児にもわかります
日本で起きた最悪の火災事故の歴史をニュースで見ていた太田幸夫さん。
授業中のわずかな空き時間を見て、消防庁に電話し非常口マークのサイン灯付け替えの進捗状況を聞いていたそうです。当時、非常口マークの現状に焦りのようなものを感じていたと推察されます。
そして1980年には文字表記から絵文字表記の国家規格(JIS)に認定され、1984年に最終的には太田さんの考案した「非常口マーク」が国際規格に認定れます。
1984年にはソ連が自国の国際規格デザイン案を取り下げたので、入れ替わりに日本案が国際規格になりました。地震や火事の時はここから逃げなさいということが、外国の人にも幼児にもわかります。
引用:非常口のピクトグラム(太田幸夫 デザインアソシエーツ)
https://note.com/otayukio_design/n/ne234df4edb63
実験データを使って世界から集まるメンバーを説得し、図案変更となる
非常口のマークが世界共通化される際には実は今のマークとは別の、ロシアが提出していた図案が採用されていました。
しかし、日本が「非常口マーク」を使って実験を行い、データに基づいた説得を行った結果、ロシアが申請を取り下げる形となり、日本案(にフランス案をチョイ足しした案)である現在の非常口のマークに最終決定したといいます。
数年の審議を経て、ソ連案(図4)に決まりかかっていたところ、日本案が持ち込まれたので、ソ連は日本政府に抗議文を送りつけてきました。日本政府の意向を受けて私がデザインの立場から反論しました。82年4月のロンドン会議で、ソ連は自国の案を取り下げます。その結果、日本案が唯一の国際規格案になりました。
83年3月のノルウェー会議で、フランスとイギリスから日本案に対する部分的な修正案が出されます。フランス案(図5)は四角い緑色の下端を閉じる、イギリス案(図6)は左右の壁下にも足先と同じ白い隙間を横に入れるというものでした。
フランスが提案するように四角の中に絵柄を入れると、走る人型と見ている人との関係が途切れてしまう。緑の下端を開けることで、走る人の空間が見る人の空間とつながり、走る人は見る人自身の姿になる。一方、イギリスの提案のように壁下にも白い隙間を入れると、壁と床が離れてしまう。人であれば避難するとき、足が床から離れる。建物とその影は動かないので離れない。動と静の対比関係を使うことで、避難の意味がわかりやすくなるのです。
最終的に87年、フランス案を受け入れることで日本案が国際規格になりました。
引用元:日本発、世界標準デザイン!「非常口サイン」
https://president.jp/articles/-/16441
ロシアの図案とほぼ一緒のことに意義がある
一方で、世界共通化を激しく争ったロシア(当時はソ連)が提出してきた図案と、示し合わせていなかったのに、ほぼにたようなデザインを生み出したことにこそ、意義があると太田さんは仰っています。
事前に意見や情報を全く交換していない日ソ両国が、ほとんど同じデザインを生み出したという事実にこそ重大な意味がある。「非常口」というような難しい複合的意味概念を、どのように視覚化するかと時、そこに重要ないくつもの共通性が得られたということにこそ、現代社会にとって大切なのだ。
引用元:ユニバーサル・コミュニケーションデザインの認識と実践
https://www.forum8.co.jp/topic/universal107.htm
太田さんの抱く著作権解放への疑念
非常口マークについては、国が公示するマークとなるため、作者である太田さんに対して著作件を解放するように国から依頼されたようです。以下の文章から「非常口マーク製品のメーカーはドル箱なのに・・・」という疑念を抱く気持ちが伺えます。
筆者がデザインに直接関わった非常口ピクトグラムは、日本発国際標準化を成功裏に果たした代表例として高く評価されている。けれども当初、「著作権を開放してほしい」と当局から頼まれた。理由は「みんなが使う物だから」という。そのデザインを使って数知れず非常口サイン製品を製造販売してきた日本最大手の工業会にとって30年来ドル箱でありながら、デザイン料は無料であった。
引用:ユニバーサル・コミュニケーションデザインの認識と実践
https://www.forum8.co.jp/topic/universal107.htm
さらに、著作物利用料とは別の問題もあります。それは、非常口マークが規格された形で使われない例があることです。以下は、最終決定した『非常口マーク』と、『矢印』を混在してサイン化した例とになります。パナソニックが2011年に発売していたものだそうです。太田さんはこのような図案について「著作権と著作者人格権を侵害した荒技である」と嘆いています。
ただし矢印の表示面を削除して、非常口の形の中に矢印を混在させてしまった。費用対効果で生産性を優先する結果となった。著作権と著作者人格権を侵害した荒技である。改変に際し現著作者には何の相談もない。ここに第三の問題が横たわっている。
引用:ユニバーサル・コミュニケーションデザインの認識と実践
https://www.forum8.co.jp/topic/universal107.htm
1994年「誘導灯」がグッドデザインを受賞
一方、1994年には、松下電工(現在のパナソニック)が、『日本産業デザイン振興会会長賞-地球にやさしいデザイン』賞としてグッドデザイン賞を受賞しています。
日本発信の国際基準である非常口マークの誘導灯ですが、それまで長方形であったサイズを正方形にし、取り付けが困難だった狭い空間に対応したことが評価されたようです。
さらに、小型化とともに表示面の輝度を向上させて、視認性を確保し、誘導効果を高めたことが評価されました。
デザインの利用には敬意を払って
非常口マークは日本が世界と戦いながら、世界共通の企画にした誇り高いマークなのです。国が公示しているため著作権法上の保護をうけることはありません。しかし、著作権がないからといってむやみに改変することはデザインに対する敬意を損ねているでしょう。
利用する場合は、本来のデザインの意図をくみ取り、利用したいものです。
※1 http://www.pictosan.com/